先日、J-Moshiという、日本語におけるfull-duplex音声対話システムされ、大きな話題を呼びました。Githubリンクを下記に貼りますが、人間同士の対話に近づけるアプローチとして、注目されています。
https://github.com/nu-dialogue/j-moshi
ところでMoshiとは?
J-Moshiについては、Xなど見てると、日本から画期的な技術がでたと言う意見も見ました。ある意味でそうなのですが、おおもととなるMoshiという技術が存在しており、それに対して追加学習を行ってできたのがJ-Moshiなのです。
それを踏まえて、まずはMoshiについて、その論文内容や、現状の問題点などを見ていく必要がありそうです。
★pinokioを入れてる人は、Moshi自体はすぐセットアップできるので、気になる方はDiscoverから見つけて触ってみて下さい。(私はやってません。)
Moshi: 音声対話の新しいアプローチ
Moshiは、リアルタイムで自然な音声対話を実現するためのAIモデルです。従来の音声対話システムの問題点を解決するために設計されており、音声を直接やり取りすることで、よりスムーズでリアルな会話を可能にします。
従来の音声対話システムの問題点
これまでの音声対話システムは、大きく分けて以下のような流れで動いていました。
- 音声認識: 人間が話した言葉をAIが文字データ(テキスト)に変換する。
- テキスト処理(対話管理): 変換されたテキストをもとに、AIが適切な返答を考える。
- 音声合成: AIが考えた返答を、合成音声でユーザーに伝える。
この仕組みは、いくつかの問題を引き起こしていました。
- 遅延(ラグ)が発生する
→ 例えば、AIが人の言葉を認識し、テキストに変換し、返答を考え、音声を生成するまでの間にタイムラグ(遅延)が発生し、会話がぎこちなくなる。 - テキスト変換のせいで、話し方の情報が失われる
→ 例えば、「えっと」「あー」「うん」などの細かい音や、声のトーン、感情などの非言語情報が抜け落ちてしまう。 - ターン制に縛られる
→ 通常の会話では、お互いが同時に話すこともあるし、相槌を打ったり、途中で話を遮ることもある。しかし、従来のAIは「一人が話し終わったら、もう一人が話す」というターン制の会話しかできなかったため、スムーズな対話が難しかった。
Moshiの新しい仕組み
Moshiは、これらの問題を解決するために 「音声を直接やり取りする」 方法を採用しています。論文から、内容を理解していきましょう。
https://arxiv.org/abs/2410.00037 (論文リンク)
💡 従来の「音声 → テキスト → 音声」の流れをなくし、音声同士を直接処理する。そのために、Moshiでは次のような技術を使っています。
① 音声のトークン化
Moshiは、人間の音声を 「小さな単位(トークン)」 に分解して処理します。これは、文章を「単語」や「文」に分解するのと同じように、音声を細かく分けるイメージです。
このトークン化の方法として、ニューラルオーディオコーデック(Neural Audio Codec) という技術が使われています。これは、音声を「圧縮データ」のような形に変換する技術で、テキストを使わずに音声情報を保持する ことができます。
🎤 従来の音声認識と違い、Moshiは音声の細かいニュアンス(感情、トーン、間の取り方など)を保ったまま処理できます。
② 内的独白(Inner Monologue)
Moshiは、AIが自分自身の考えを整理するために 「頭の中でつぶやくような仕組み」 を持っています。
💡 AIが、実際に音声を発する前に、内部的に「言葉の候補」を考える
これにより、Moshiはリアルタイムで話しながらも、よりスムーズに発話できるようになっています。
例えば、人間が会話するときも、次に何を話そうか考えながら話していますよね?MoshiはこれをAIの処理の中に組み込んでいます。
③ ターン制をなくし、同時に話せる
従来のAIは、「相手が話し終わるまで待つ」必要がありましたが、Moshiは違います。
💡 人間同士の会話のように、同時に話したり、相槌を打ったりできる!
これは「全二重(フルデュプレックス)」という技術を活用していて、同時に音声を処理し、リアルタイムで反応することができます。
例えば、
❌ 従来のAI:「話し終わる → 返答 → 話し終わる → 返答」
⭕ Moshi:「話しながら、相手の言葉を理解し、すぐに反応する」
Moshiの全体的な構造

このアーキテクチャの特徴
✅ 音声とテキストの統合モデル → 言語モデル(Helium)と音声モデル(Mimi)を組み合わせた強力なシステム。
✅ 時間コンテキストを考慮した高度な処理 → RQ-Transformer や Depth Transformer により、文脈を正しく理解し、自然な会話を生成。
✅ Inner Monologue によるスムーズな応答 → Moshiが「考える時間」を持ち、より人間らしい会話が可能。
✅ リアルタイム対話が可能なストリーミング処理 → 音声を直接トークン化し、時間を無駄にせず処理。
Mimiのアーキテクチャ

気になったところ: Moshiの音声コーデック「Mimi」のアーキテクチャとトレーニング手法について 。
Mimiは、音声を圧縮・再構成するための ニューラルオーディオコーデック であり、特に split residual vector quantization(分割残差ベクトル量子化) という技術を採用している…
調べると、音声を圧縮しながらも高品質な再構成を実現するためので、ポイントは、意味情報(セマンティック)と音響情報(アコースティック)を分離して処理するって部分みたいですね。…正直ちょっと良くわからないですね。
RQ-Transformer

RQ-Transformerの役割
RQ-Transformerは、長い時系列データ(音声の連続トークン)を、より小さな単位に分解し、効率的に処理するための仕組み。 特に、音声データは時間方向に非常に長くなりがちなので、そのまま処理すると計算コストが膨大になります。そこで、以下の 2段階のTransformer構造 を用いて、スケーラブルに処理できるようになっています。…らしいです。
長い音声対話を分割して処理するという意味では、この部分が肝なんですかね。
Moshiのメリット
✅ 遅延がほぼない(約200ミリ秒で処理)
→ 人間同士の自然な会話に近いスピードでやり取りできる。
✅ 声のニュアンスや感情を保持
→ 「うんうん」「へぇ」「なるほど」などのリアクションもリアルに再現可能。
✅ ターン制を取らず、自由な会話ができる
→ 割り込み、相槌、同時発話もスムーズに処理できる。
✅ テキストを介さず、直接音声でやり取りできる
→ テキスト変換による情報の損失がない。
実用的な活用シーン
🚀 カスタマーサポート
→ 従来のチャットボットより、自然でスムーズな受け答えが可能。
🎙 スマートスピーカーやアシスタントAI
→ SiriやAlexaのようなアシスタントAIが、より人間らしく会話できるようになる。
🤖 ロボットやバーチャルキャラクターの対話
→ VRやメタバース空間で、AIキャラクターとリアルな音声対話ができるようになる。
📞 AI電話対応
→ 企業のコールセンター業務などを、よりスムーズに自動化できる。
🎮 ゲームのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)
→ AIキャラがプレイヤーの発言に自然に反応し、より没入感のあるゲーム体験を提供できる。
Moshiが抱える問題点と課題
Moshiは革新的な音声対話モデルですが、しかしながらいくつかの課題があります。Redditなどでは、精度などの指摘もありましたが、今後を見ていく上で、特に以下を念頭に置く必要があるかもしれません。
- 音声認識の誤差
- 雑音や同時発話の影響で正確に認識できない場合がある。
- 相槌や割り込みを適切に処理できるかが課題。
- 文脈理解の限界
- 長い会話の流れを記憶するのが難しく、適切な返答ができない場合がある。
- 曖昧な表現や感情の解釈が不完全。
- 計算コストが高い
- リアルタイム処理には高性能なデバイスが必要。
- クラウド依存が強く、オフラインでは動作が難しい。
- 応答速度と会話の質のバランス
- 速さを優先すると、適切な返答ができずに不自然な会話になる可能性。
- 難しい質問に対して深い回答ができないことがある。
- プライバシーとセキュリティ
- 常時音声を処理するため、個人情報の漏洩リスクがある。
- データの取り扱いと暗号化の工夫が必要。
今後の改善策
- 高度な話者識別技術やノイズ除去の強化
- 長期記憶機能や感情認識AIとの統合
- エッジAI技術の導入で計算負荷を分散
- リアルタイム処理と会話の質を両立する最適化
- プライバシー保護のための設定オプション追加
Moshiは大きな可能性を秘めていますが、これらの課題を解決することで、より実用的で安全な音声対話AIへと進化するでしょう。
まとめ
Moshiは、従来の音声対話システムの課題を解決し、「人間らしいリアルな会話ができるAI」 を実現しました。
特に、
🔹 遅延をなくし、リアルタイムで会話できる
🔹 音声の細かいニュアンス(感情、間の取り方)を保持
🔹 ターン制をなくし、同時発話や割り込みが可能
という点が革新的です。
この技術が発展すれば、AIとの会話がより自然になり、スマートスピーカーやAIアシスタント、ゲーム、接客ロボットなど、さまざまな分野で新しい体験が生まれるでしょう。
今後、Moshiがどのように進化し、どんな新しい使い方が生まれるのか、楽しみです。J-Moshiの追加学習段階での工夫など、すごく気になるところではありながら、日本語との相性がいいのでおもしろいなと思っています。
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